Topics

2026年08月24日

「第69回日本糖尿病学会年次学術集会」2026年5月21日~23日開催

2026年5月21日、「第69回日本糖尿病学会年次学術集会」において、学会・機構の共同企画シンポジウムが開催された。

座長は認定機構理事長の宇都宮一典先生(慈生会野村病院/東京慈恵会医科大学名誉教授)とCDEJ更新5回、岡井明美先生(和歌山信愛短期大学教授、管理栄養士)が務められた。
会場である「リーガロイヤルホテル大阪」には約650名の参加者にお集まりいただき、各演者からは、豊かな経験を踏まえたお話を伺うことができた。

シンポジウムの冒頭、宇都宮座長は 「近年、糖尿病のチーム医療が病院から地域包括型へシフトしている。それらに伴い、CDEJの働く場は多様化している。患者数は従来から減っている訳でもなく、認定機構は在宅医療・介護の実態にも重視し、様々なCDEJの資格要件等についても見直しを図っている。本日はそれぞれの職種にとって、これからのCDEJの役割について、いかにあるべきか、お話を伺いたい。」との挨拶があった。
続いて、各職種の先生方からご講演をいただいた。

シンポジウムテーマ

変貌する糖尿病医療とこれからのCDEJの役割

演者(敬称略)と演題

1. 成瀬 桂子(愛知学院大学歯学部内科学講座、医師)

「我が国の糖尿病医療の変化とCDEJの役割」

 わが国の糖尿病医療は、高齢化の進展、患者数の増加、医療資源の制約といった社会的背景のもとで、大きな転換期を迎えている。かつての糖尿病医療は、血糖値やHbA1c といった数値の管理を中心とした糖尿病専門施設の病棟や外来における「疾患管理型医療」が主流であったが、近年では社会生活を含めた包括的支援を重視する「患者中心の医療」へとその重心が移行している。糖尿病合併症の予防、生活の質(QOL)の維持・向上が重要であり、そのために認知症やサルコペニア、フレイル、歯周病といった糖尿病に併存する疾患の予防・治療への介入も必要である。さらに糖尿病診療は、厚生労働省が進める地域包括ケアシステムの中核に位置付けられ、病院から在宅診療に至るシームレスな連携が求められている。一方で、新規治療薬の登場、持続血糖測定(CGM)やデジタルヘルスの普及、次々に改良されているインスリンポンプなど、糖尿病診療の選択肢と複雑性は一層増している。

 こうした変化の中で、多職種が連携して患者を支えるチーム医療の重要性が強く認識されるようになった。その中核を担う存在として期待されているのが、CDEJ である。CDEJ は、医学的知識に基づいた療養指導のみならず、患者の生活背景、心理的側面、社会的要因を踏まえた支援を行うことで、治療の継続性と実効性を高めてきた。特に、高齢糖尿病患者や併存疾患を有する症例においては、服薬管理、低血糖予防、フレイル対策など、きめ細かな介入が求められており、その役割はますます拡大している。

 地域包括ケアシステムの進展に伴い、外来・入院診療にとどまらず、地域の診療所、訪問看護、介護サービスとの連携を円滑に進めることが求められており、CDEJ は医療と生活をつなぐ架け橋として重要な役割を果たす。医科歯科連携や他疾患領域との協働、さらにはデジタルツールを活用した新たな療養支援の担い手としても、CDEJ の専門性を社会に還元していくことが求められる。CDEJ の活動の場は、クリニックのみならず、在宅医療、災害医療、健康・福祉行政などますます拡大しており、さまざまな場所での糖尿病医療においてリーダーシップを発揮することが期待されている。

2. 豊島 麻美(武蔵野赤十字病院訪問看護ステーション、看護師)

「介護現場でのCDEJの役割」

 高齢化の進行に伴い、介護現場における糖尿病患者の増加が顕著となっている。認知機能低下や多疾患併存を有する高齢者では、血糖管理の複雑化や低血糖リスクの増大が課題である。CDEJ(日本糖尿病療養指導士)は、専門的知識を活かし、利用者個々の生活背景やADL に応じた療養支援を行うとともに、介護職員への教育・助言を通じてチーム医療を推進する役割を担う。さらに、医療機関との連携や服薬・食事・運動療法の調整を支援することで、安全かつ継続可能な糖尿病管理に寄与する。今後、介護現場におけるCDEJの関与は、利用者のQOL 向上と重症化予防の観点から、ますます重要になると考えられる。

 地域包括ケアシステムとは、高齢者が要介護状態になっても住み慣れた場所で自分らしい暮らしを最後までおくれるように、地域が一体となり支援体制を構築する仕組みである。

 地域包括ケアシステムにおける地域の範囲は、「おおむね30 分以内にサービスが提供できる日常生活圏」とされており、中学校の校区区域と同等の範囲となる。こうした地域の包括支援センターやケアマネジャーが中心的な担い手となる。地域包括ケアシステムにおける糖尿病患者への支援は、単なる血糖管理(医療)にとどまらず、住まい・介護・予防・生活支援を一体化し、高齢糖尿病患者が住み慣れた地域で尊厳ある自立した生活を継続できるようにする包括的なアプローチが求められている。

 地域包括ケアシステムにおける糖尿病患者への支援は、医療者側が「こうあるべき」と理想を優先するよりも、糖尿病者の現在の生活環境(家族関係、生活上の阻害要因)を把握した上で、納得感のある日常的な自己管理・療養生活をいかに支えるか、という視点が重要である。糖尿病をもつ人への介護では、「血糖の安定」「合併症の予防」「本人の自立を尊重」が大きな柱になり、これからCDEJ が地域で果たす役割は高齢糖尿病者の健康維持増進や合併症予防に向けて「一歩先」を照らして健康増進を担う期待ができると考える。

 本シンポジウムでは、訪問看護活動を通じて地域の医療介護スタッフと協働について紹介し、地域におけるCDEJ が役割発揮への展望についてディスカッションできる機会としたい。

3. 和田 啓子(京都大学医学部附属病院、管理栄養士)

「栄養指導目標の多様化をめぐって」

 糖尿病医療は、薬物療法や医療デバイスの進歩、診療ガイドラインの改訂、さらには患者背景の多様化により、大きな転換期を迎えている。こうした変化の中で、栄養指導に求められる目標も、従来の「血糖コントロールの改善」を中心とした一律的な設定から、患者一人ひとりの価値観、生活背景、合併症、治療段階を踏まえた、多様で柔軟なものへと変容している。

 特に近年は、高齢糖尿病患者の増加に加え、サルコペニアやフレイルへの配慮、壮年期・就労世代における治療継続性の確保、さらにはQOL や心理社会的側面を重視した支援の重要性が指摘されている。壮年期から高齢期へと移行する過程においては、血糖管理を重視した栄養指導から、低栄養予防、筋量・身体機能の維持、さらには「安全に食べ続けること」を重視した目標へと、段階的かつ連続的な見直しが求められる。

 このような背景を踏まえると、栄養指導の目標は、単なる数値目標の達成にとどまらず、「生活の中で実行可能であること」「患者自身が納得し、主体的に選択できること」「長期的に継続できること」といった包括的な視点を必要とする。とりわけ高齢者においては、食事量や栄養バランスだけでなく、摂食・嚥下機能の低下、口腔環境、食事形態への配慮が不可欠であり、栄養指導と摂食・嚥下機能評価を切り離さずに捉える視点が重要となる。

 大学病院における管理栄養士は、高度・専門的治療を担う医療チームの一員として、個別化医療の実践とエビデンスの臨床応用を両立させる役割を担っている。

 本発表では、壮年期から高齢期に至る栄養指導目標設定の変化を整理するとともに、摂食・嚥下機能評価を含めた多面的なアセスメントを基盤として、多様化する目標をどのように共有・評価し、多職種連携の中で実践していくかについて考察する。

 さらに、変貌する糖尿病医療の中でCDEJ が果たすべき役割として、専門性に基づいた調整機能、患者と医療者をつなぐ橋渡し、そしてチーム医療を推進するコーディネーターとしての重要性を、栄養指導の視点から提起したい。栄養、運動、薬物療法のみならず、生活機能や「食べる力」を含めた包括的支援において、CDEJ が果たす役割は今後さらに拡大していくと考えられる。

4. 河﨑 尚史(大阪公立大学医学部附属病院、薬剤師)

「薬物療法の最適化を目指して

 糖尿病薬物療法の最適化には、HbA1c の改善のみならず、患者背景に即した薬剤選択と安全性の両立が不可欠です。2023 年に追補され発表された「2 型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」により、本邦の処方実態や病態に応じた薬剤選択が明確化されましたが、依然として適切な時期の治療強化を阻む「クリニカルイナーシャ(CI)」が課題となっています。

 一方で、2024 年問題が視野に入り日本の高齢化が進む中、過剰治療による重症低血糖やポリファーマシーを回避する「リバースクリニカルイナーシャ(RCI)」の視点も、薬剤師が関わる療養指導において極めて重要です。薬剤師のCDEJ としての立場から、多職種チームの架け橋として、残薬確認を通じたアドヒアランス向上や、在宅生活における食行動の把握等に基づいた最適な処方提案の実施といった専門的介入が期待されると認識しています。

 続々と報告される最新のエビデンスにより、SGLT2阻害薬やGLP-1 受容体作動薬、GIP/GLP-1 受容体作動薬の臓器保護・体重減少効果について注目されていますが、その恩恵を享受するためには、副作用管理やデバイスの適正使用の徹底が不可欠と考えます。特に新規に発売が開始された週1 回投与インスリン製剤については、2025 年4 月に日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会により「高齢者における週1 回持効型溶解インスリン製剤使用についてのRecommendation」が発表され、同年5月には日本くすりと糖尿病学会から「インスリンイコデク適正使用のてびき(薬学的管理のポイント)」が発表されています。インスリンイコデクについては、従来比7 倍の高濃度製剤であり、投与方法及び1回投与量の誤認等に起因する医療事故防止に向けた専門的な情報提供が急務と認識しています。本シンポジウムでは、市販直後調査の報告も踏まえ、2040 年に向けて変化する在宅や地域医療における高齢糖尿病患者に対する薬物療法の課題に対し、日本くすりと糖尿病学会が主催する糖尿病薬物療法認定薬剤師技能研修会を通じた薬剤師CDEJ としての活動事例他を報告し、最新の薬物療法を安全かつ実際に役立つ支援へと発展させるためのチーム医療における薬剤師の役割について議論できればと考えています。

5. 小宮山 恭弘(森ノ宮医療大学医療技術学部、臨床検査技師)

「高齢糖尿病患者の血糖マネジメントと臨床検査技師の役割」

【緒言】糖尿病の合併症進展抑止はCDEJ にとって最も重要であり期待される点である。本シンポジウムでは先進デバイスを用いたCDEJ の関わりについて紹介する。

【背景】DCCT およびUKDPDS 研究で示されたように糖尿病合併症の発症および進展を防ぐためにはHbA1c 低下は欠かすことのできない目標である。一方、ACCORD 研究ではインスリン治療率の増加により体重増加および低血糖が増え、死亡リスクが増える可能性も報告された。24 時間心電図とCGM(Continuous Glucose Monitoring) を同時装着した研究では低血糖および急激な血糖降下時にのみ狭心症症状および心電図異常が検出され(Desouza)、夜間低血糖時には不整脈出現率も高いことも報告されている(Chow)。

【低血糖回避および血糖変動減少】低血糖および血糖変動を解消するため、従来は簡易血糖測定器による自己血糖モニタリング(SMBG)が中心であったが、費用面(本邦ではインスリン注射療法施行者のみ保険適用)、QOL 面(疼痛、消毒、施行場面、携帯および後始末など)、社会面(運転および勤務中などの実施が困難)での制約が普及の妨げとされてきた。

【先進デバイスの利用】血糖変動の指標としてM 値、MAGE、ADRR が報告されてきたが、いずれも日常臨床中に用いるためにはハードルが高い。近年、我が国でもCGM が普及し、現在は「Libre 2」「DexcomG7」の使用者数が増えてきた。CGM では血糖変動の指標として視覚的には「AGP(Ambulatory Glucose Profile)」、数値的には「TIR(Time in Range)」が利用可能であり、特にTIR 70% 未満(HbA1c 7% 未満に相当)は治療目標の一つとして広く普及してきた。

【症例提示】本シンポジウムでは示唆に富み、糖尿病療養指導士を含めた医療関係者および患者への情報共有が有益と判断されたCGM 症例を数例報告予定である(「高血糖是正」「服薬継続」「無自覚性低血糖」など)。

【結語】従来の血糖モニタリングと、最新デバイスを用いた高齢者への施行例について、CGM が血糖変動および低血糖の是正に有効であった症例を交えて紹介した。CGM に関わる臨床検査技師はまだまだ少ない現状であるが、臨床検査技師法の法改正やタスクシフト・シェアの広がりにより、今後多くの技師が本業務へ参入していくことが望まれる。

臨床検査技師の患者へ関わる機会が増えることで、糖尿病療養指導士としてのやりがいを次世代の技師へ伝えていきたい。

6. 橋爪 真彦(有馬温泉病院、理学療法士)

「糖尿病を併存するマルチモビディティ患者に対する回復期リハビリテーションの課題と役割」

 近年の糖尿病医療は、血糖管理を中心とした治療から、心血管疾患や腎障害の予防、さらには生活機能やQOL の維持を重視した包括的医療へと変化している。SGLT2 阻害薬やGLP-1 受容体作動薬の普及により心腎保護効果が注目される一方で、高齢化の進行に伴い、フレイルやサルコペニアを合併し、糖尿病を含むマルチモビディティ患者が増加している。このような背景から、脳卒中や骨折後の回復を経て在宅復帰を目指す回復期リハビリテーション(以下、回復期リハ)病棟においても、糖尿病患者のマルチモビディティを踏まえた包括的な対応が不可欠となっている。

 当院回復期リハ病棟は全国平均と比較して患者平均年齢が高く、脳卒中後および大腿骨近位部骨折術後の患者を中心に、複数の併存疾患を有する症例が増加している。大腿骨近位部骨折術後患者を対象に併存疾患の影響を後方視的に検討した結果、循環器疾患と糖尿病の両方を併存する群では、併存しない群と比較して在宅復帰率および入棟中のFIM 利得に有意差は認められなかった。一方で、手術から回復期病棟入棟までの日数ならびに回復期在棟日数は有意に延長していた。これらの患者では、同程度のADL 改善に要する期間が延長しており、介入中の併存疾患増悪や骨折後の回復過程の遷延が示唆された。

 また、回復期リハ病棟においては糖尿病合併症予防への取り組みも重要である。日本糖尿病理学療法学会および日本フットケア・足病医学会が推進するHADASHI check プロジェクトに基づき、当院では糖尿病患者に対し、理学療法・作業療法実施時の裸足観察を日常的に行っている。これにより、創傷や下肢切断の予防、ならびに運動療法による足病変の悪化防止を図るとともに、入院中からセルフマネジメント意識を高め、退院後の糖尿病合併症予防に寄与することを目的としている。さらに、入院中に取り組んだ課題を退院後も継続できるよう、在宅サービスとのシームレスな連携が求められる。

 高齢化と医療の高度化が進展する中、回復期リハは身体機能回復の場にとどまらず、在宅復帰を目標とした生活機能の再建と、糖尿病をはじめとする慢性疾患管理を統合的に担う重要な役割を有している。退院時ADL や移動能力などのアウトカムを重視した介入は長期的な健康維持に直結し、また入院期間は患者の疾患理解を深め、行動変容を促す重要な教育的機会でもある。回復期リハ病棟に糖尿病専門医を常勤配置することは一般的ではないため、糖尿病を有する患者への対応においては、CDEJ が多職種連携の中核として運動療法支援と患者教育を調整し、退院後を見据えた継続的な支援体制を構築することが期待される。