ホテルメトロポリタン盛岡本館 4階 姫神にて、日本糖尿病学会とCDEJ認定機構の共同企画により<CDEJシンポジウム>を開催しました。

左から(*以下敬称略)
平泉 達哉(薬剤師CDEJ / 能代厚生医療センター)
相澤 郁也(理学療法士CDEJ / 三咲内科クリニック)
橋本 祐子(看護師CDEJ / 那須中央病院)
宇都宮 一典(医師 / CDEJ認定機構理事長・慈生会野村病院)
四方 賢一(医師 / CDEJ認定機構常務理事・岡山大学)
中川 裕美(臨床検査技師CDEJ / CDEJ認定機構理事・倉敷中央病院リバーサイド)
山本 恭子(管理栄養士CDEJ / 虎の門病院)
鈴木 亮(医師 / CDEJ認定機構理事・東京医科大学)

シンポジウムテーマ
「高齢者糖尿病の包括的ケアの実践:高まるニーズにどう応えるか」
座長
宇都宮 一典(医師)/ 四方 賢一(医師)
演者と演題
1.鈴木 亮「高齢者糖尿病の診療における課題と展望」
高齢糖尿病患者の診療機会が著しく増加した現状を受け、2015年より日本糖尿病学会と日本老年医学会は合同委員会を設置している。高齢者糖尿病の治療目標は、糖尿病のない高齢者と変わらないQOLと寿命の達成である。高齢者糖尿病の特徴として、食後に血糖値が上昇しやすく、低血糖に対して脆弱である。動脈硬化性疾患の合併が多く、無症候性の場合が少なくない。高齢糖尿病患者は低血糖に対する自覚症状がはっきりせず典型的でないことがしばしばあり、対処が遅れがちで重症化しやすい。また、認知機能障害、うつ状態、ADL低下、サルコペニア、フレイル、転倒・骨折などの老年症候群をきたしやすい。低栄養や栄養バランスの偏りを生じやすく、サルコペニアおよびフレイル対策を考慮する必要がある。さらに併存症が多い結果ポリファーマシーになりやすい。シックデイに陥るリスクが高く、患者のみならず家族の理解と支援、多職種による関与が治療の質の向上にとって望ましい。
インスリン治療においては、低血糖への対策を立てて、患者や介護者に対処法を説明すること、認知機能やQOLに配慮して注射回数をできるだけ少なくすることが望ましい。週1回持効型インスリンが発売され、自己注射が困難な高齢者の糖尿病治療で訪問看護や家族によるインスリン注射の障壁低減が期待されている。低血糖をできるだけ回避して用量調節を行うために、CGMなど可能なモニタリングの手段確保が重要となる。
高齢者糖尿病では罹病期間が長い患者が多く、糖尿病性腎症を含む細小血管症や動脈硬化性疾患の頻度が増える。罹病期間が短く、重篤な併存症のない長期余命が予想される患者と、低血糖への脆弱性が問題となるフレイルを有する患者を区別して治療方針を決定する必要がある。治療薬や治療選択肢が増えた現在、本講演では高齢者糖尿病の診療における課題を考察する。
2.山本 恭子「管理栄養士が担う高齢者糖尿病の包括的ケアと多様な栄養管理目標への対応」
高齢化が急速に進む中、独居や高齢者世帯の増加により、食環境の脆弱化、低栄養、サルコペニア・フレイルの進行がみられ、糖尿病を持つ人の血糖管理は一層複雑化している。高齢者糖尿病では、血糖指標のみならず、身体機能・生活機能・口腔機能・社会的背景を含めた包括的視点が不可欠である。筋量低下やフレイルの進行は、活動量低下や低栄養を介して血糖変動と血糖不安定化を招きやすく、適切なたんぱく質摂取を基盤とした食事管理が重要である。
高齢者では、調理負担の増大、食料品へのアクセス低下、社会的孤立、認知機能低下、咀嚼・嚥下機能の低下など複数の要因が重なり、食事がワンパターン化しやすい。柔らかく食べやすい菓子パンや芋類など糖質中心の食品に偏る傾向があり、たんぱく質や食物繊維の不足が生じやすい。また、嚥下機能の低下により「食べたいものが食べられない」状況が生じると、低栄養が進行し、血糖管理の不安定化と生活機能の低下を同時に引き起こす。これらの背景は、個々の栄養管理目標を画一化できない理由となっており、自宅での生活実態を踏まえた支援が必要となる。
自宅での生活場面では、食事量の変動、服薬との関係による低血糖リスク、生活リズムの乱れ、介護力の不足、社会的孤立など、外来とは異なる多面的課題が存在する。こうした状況において、持続血糖測定(Continuous Glucose Monitoring:CGM)の活用は、高齢者の血糖管理における新たな選択肢として注目されている。CGMは血糖変動の可視化や無自覚性低血糖の早期発見に有用であり、食事量の変動が大きい症例や認知機能が低下した症例においても、より安全な療養生活を支えるツールとなる。また、家族や介護者が血糖変動の傾向を共有できる点は、生活支援(在宅)における多職種連携を促進する。
さらに、週1回投与のインスリン製剤の登場は、自己注射の負担軽減やアドヒアランス向上に寄与し、在宅高齢者の血糖管理を支える治療選択肢として期待されている。注射回数の減少は、視力低下や手指巧緻性の低下を抱える高齢者にとって大きな利点であり、介護者の負担軽減にもつながる。これらの治療技術の進歩は、栄養支援と組み合わせることで、より安定した血糖管理を実現する可能性がある。
管理栄養士は、栄養評価に基づく食支援に加え、身体機能・口腔機能・社会的要因を踏まえた介入を通じて高齢者の「食べる力」を支え、より良い血糖管理につながる食事・栄養面を専門的に支える職種である。高齢者糖尿病の栄養支援においては、個々の生活背景や食事の実態に応じて、本人のみならず家族や介護者を含めた支援体制を整え、多様な栄養管理目標に対応することが求められる。
3.平泉 達哉「包括的ケアの視点から考える高齢者糖尿病の薬物療法」
高齢糖尿病患者は増加傾向にあり、その病態や生活背景も多様化してきている。フレイルやサルコペニア、認知機能低下、複数の併存疾患を有する患者も多く、若年・中年期と同様の血糖管理や薬物療法を適用することは、低血糖や有害事象のリスクを高める可能性がある。このような背景から、高齢者糖尿病における薬物療法には、血糖マネジメントのみならず、安全性や生活の質を重視した包括的ケアの実践が求められる。
高齢者糖尿病の薬物療法における主な課題として、低血糖リスクの増大、ポリファーマシーおよび薬物間相互作用、腎機能や肝薬物代謝機能の低下による薬物動態の変化、実際の薬物療法と患者の生活環境や服薬管理能力との不整合などが挙げられる。特に重症低血糖は転倒や認知機能低下、予後悪化につながることから、その予防は極めて重要であり、日常診療における継続的な薬物療法の評価が不可欠である。また、これらの課題に対しては、治療目標の個別化も重要となる。年齢やHbA1cのみならず、ADL、認知機能、低血糖リスク、および社会的背景を総合的に評価し、患者ごとに適切な治療目標を設定する必要がある。さらに、低血糖リスクの少ない薬剤の選択、投与回数や剤形の簡素化、病態および生活背景を踏まえた治療強度の設定は、安全で効果的な治療につながる。一方で、高齢者糖尿病では病態や生活状況が経時的に変化することが多く、初期に適切と判断された治療であっても、時間の経過とともに過剰治療となる可能性がある。そのため、治療の追加や強化だけでなく、病態や生活背景を踏まえた治療強度の再最適化(薬物療法の見直しや整理)を継続的に行う視点が重要となる。特に食事摂取量の低下や生活環境の変化が生じた場合には、低血糖リスクを最小限に抑えるための薬物療法再評価が求められる。薬剤師は日々の業務において、検査値や処方内容のみならず、服薬状況や生活実態を把握する立場にあり、こうした変化に早期に気づき、処方提案による薬物療法適正化の役割を担う必要がある。処方内容の定期的な評価や多剤併用の是正は、低血糖予防や有害事象回避に寄与するだけでなく、患者の生活の質や治療継続性の向上にもつながる。
高齢者糖尿病の薬物療法は、医師、看護師、管理栄養士など多職種が連携する包括的ケアの中で実践されるべきであり、薬剤師は薬物療法の専門職として、治療方針の共有や情報連携を通じてチーム医療に貢献することが期待される。
本シンポジウムでは、高齢者糖尿病における薬物療法の課題とその対策を整理するとともに、高齢者糖尿病の包括的ケアの実践において、高まるニーズにどう応えるかを考察し議論できれば幸いである。
4.中川 裕美「データマネージメント力を活かす!」
医療DXの進展を背景に、糖尿病診療ではCGMデータや臨床検査データを基盤とした多様な情報の活用が進みつつある。CGMデータはクラウド管理が可能となり、在宅診療の現場においても有効に活用されている。在宅診療では糖尿病専門医以外の医師が診療を担う場面も多く、複数のデータを横断的に管理・共有する役割の重要性が高まっている。臨床検査分野においても、標準化や共用基準範囲の整備により施設間でのデータ比較や地域連携が容易になり、こうしたデータ活用は高齢者糖尿病における包括的ケアの質を高める手段として期待されている。
一方で、高齢者は身体機能、認知機能、社会的背景に大きな個人差があり、標準化された指標をそのまま当てはめるだけでは適切な評価が困難な場面も少なくない。データを単に提示するのではなく、複数の情報を関連づけて理解し、臨床に活かすデータマネジメント力が求められている。
本発表では、糖尿病診療における多くの臨床検査の中から、糖尿病腎症透析予防指導を例に、加齢の影響を踏まえた検査データの解釈と指導への活かし方について紹介する。当院では、透析予防指導を臨床検査技師が管理栄養士、看護師とともに担っており、患者からの質問に向き合う中で、検査値の背景を踏まえた説明の重要性を再認識する場面が多い。腎機能評価は透析予防の観点から重要であるが、高齢者では筋肉量減少により血清クレアチニン(Cr)が低値を示し、Crを用いた推算糸球体濾過量(eGFR)が過大評価される可能性がある。また尿検査では尿の濃さの影響を受けるため、尿 Cr 補正が重要であるが、高齢者では尿 Cr が低値傾向にあり、尿Naや尿Crから算出した推定塩分摂取量が実態と乖離する場合がある。さらに尿蛋白が陰性であってもGFR低下を認めることがある。腹部超音波検査にて腎サイズの低下を認める例も多く、検査結果が基準値範囲内であっても若年者と同様の解釈が適切でない場合がある。
加えて、認知機能の低下がみられる高齢者がいる一方で、健康意識が高く積極的に情報収集を行う人も少なくない。そのような例では、果物は健康や血圧に良いとの理解から多量摂取に至り、腎機能低下がなくとも一過性の高カリウム血症を呈する症例を経験している。
高齢者糖尿病診療では、「標準化」に必ずしも当てはまらない多様性を踏まえ、データマネジメント力を活かすことで多職種と情報を共有することが重要である。臨床検査技師が検査データの背景や限界を整理し橋渡しすることで、一人ひとりの状況に応じた包括的かつ実践的な支援につながると考える。
5.相澤 郁也「高齢者糖尿病の包括的ケアを現場でどう支えるか ― 入院・外来・在宅における理学療法士の実践 ―」
高齢者糖尿病の診療においては、血糖管理に加え、フレイルやサルコペニア、転倒リスク、併存疾患、生活機能低下といった多様な課題への対応が求められている。特に高齢期では、入院、外来、在宅と医療・介護の提供の場が変化する中で、運動や生活支援が断続的となりやすく、運動習慣や生活機能の維持が難しくなる状況が日常診療の中でしばしば経験される。このような背景から、高齢者糖尿病の包括的ケアを現場でどのように支えていくかが、臨床上の重要なテーマとなっている。
理学療法士は、身体機能や動作能力の評価、運動指導を専門としながら、生活機能や活動量、生活背景を踏まえた支援を行う職種であり、入院・外来・在宅と異なる医療の場に関与する機会を有している。病院においては、入院中の身体機能低下や廃用の予防に加え、退院後の生活を見据えたリハビリテーションを実践することで、在宅生活への移行を支援している。診療所などの外来では、医師の治療方針と連携しながら、運動に対する不安や身体的制約を踏まえた運動指導を行い、運動実施や生活習慣改善の継続を支援している。在宅では、実際の生活環境に即した動作確認や運動提案、生活環境の調整を通じて、生活機能の維持や日常生活動作の安定を支える役割を担っている。
本シンポジウムでは、これら入院・外来・在宅それぞれの現場における理学療法士の関わりを紹介し、高齢者糖尿病の包括的ケアにおいて、理学療法士がどのような役割を担い、どのように関与しているのかについて話題提供を行う。特に、運動指導を単独で行うのではなく、生活機能や生活背景を踏まえて多職種と情報を共有し、連携しながら関与している実際の取り組みを共有する。
高齢者糖尿病の包括的ケアを現場で支えるための一つの視点として、理学療法士の立場からの実践を提示し、本シンポジウムにおける多職種間の意見交換や議論の素材としたい。
6.橋本 祐子「高齢糖尿病患者の課題~老健での特定行為介入で見られたインスリン患者受け入れへの変化~」
超高齢化社会となった現在、糖尿病をもつ高齢者も増えている。「高齢者が住み慣れた地域で自分らしい人生を全うできる社会を目指す」ために、地域ケアシステムの整備が急がれる中、臨床現場においても超高齢化率や使えるリソースにも地域差が生じていることを実感している。
糖尿病をもつ高齢者の療養背景や課題は複雑であり、個人に合わせた多様な支援が必要となる。日本糖尿病教育・看護学会では、「高齢糖尿病患者の課題」として11項目を挙げ、それぞれの看護について情報提供している。
たとえば、ある日、車の運転をして定期受診した患者の血糖値上昇からMCIに気づき、本人の同意を得て家族と話し合う。緩徐進行1型糖尿病で、高齢になってからインスリン療法が開始されるケースでは、たとえ手技を覚えられても、2度打ちのリスクが生じるため、事前の評価と計画が必要となる。配合溶解剤で2回注射法にすれば、訪問看護やヘルパーなどの支援は日中が中心となっているため、注射の見守りはさらに難しくなり、低血糖やシックデイ対応が後手に回ることもある。
世帯背景は、独居、老々世帯、顔を合わせることなく一つ屋根の下で暮らす家族がいる世帯などがある。家族に支援協力を依頼しても、それがきっかけとなり関係性がより悪化するケースもあり、家族だから看るのが当たり前とはならない。
また経済面では、「外来受診日を年金支給日以降にして欲しい」とか、高齢者世帯で入所を勧められても、1人が施設に入所してしまうと、もう一人の生活が成り立たなくなる場合もあり、簡単にはいかない。在宅では、インスリン分泌がほぼ枯渇しているケースであっても、治療の簡素化が求められることがあり、妥協点を探しているのが現状である。
一方、受け入れ側の事情として、通所・入所施設にも種類があり、医師や看護師の在籍の有無、それぞれの勤務体制などにより、インスリン療法が必要な高齢者をどのくらい受けられるかが異なる。たとえば200人の入所者を夜勤1人の看護師がお世話をするといった体制の施設では、経管栄養などの処置に加えて、朝食前にインスリン注射を行なうので、当然受け入れ人数は調整せざるを得ない。スライディングスケール法のまま入所に至ったり、状態の変化を主治医に報告したくても、直接指示を受けることができなかったり、これらも受け入れに影響している。これらの課題に対して誰がどう動けば解決するのだろうか。ここに、ある老健において特定行為で介入した結果、受け入れ体制が変わった事例を紹介する。糖尿病を持つ高齢者が住み慣れた地域で自分らしい人生を全うできるために、インスリン事情を中心に課題をあげて、少ないリソースをタイムリーに活用できる方法を、皆様と一緒に考えたい。